トランセンドユーザから見た ソニーのウォークマンレビュー


 年末の熱にやられて散財した.
ソニーの携帯型 DAPNW-S644を買ってしまったのだ.
正直,今使っているトランセンドDAP,MP840に(いくつか不満はあるが)問題はない.
それでもウォークマンには「欲しい」と思わせる何かがあった.







で,買ってからしばらく使ってみたので
此処で『トランセンドユーザから見たウォークマンレビュー』を行う.
Sony信者や iPod至上主義者のような今風の DAP使いではなく
Trancendや iReverのような派手さはないが堅実な作りをする製品に魅力を感じる速鳥のレビューであり,
嗜好を同じくする人間向けであることを前置きしておく.




■概要

  • D&Dでファイルの転送が可能.
  • しかしながら転送ソフトの利用が前提の作り.
  • 超速起動,レジューム機能あり.しかし条件付き.
  • 便利そうに見えて練られているとは言えない操作性.
  • 連続再生42時間.最長クラスのバッテリー性能.


D&Dでファイルの転送が可能


 時代にそぐわない転送ソフトの利用を強い続けてきたウォークマンも,
ついに D&Dでファイル転送が可能になった.
これに歓喜の声を上げた人間も少なくないだろう.
残念ながらPCとの接続には,外部出力端子と兼ねている特殊なコネクタを使うので
汎用性のある mini USBケーブルは使う事は出来ず,専用 USBケーブルを用いる.




■転送ソフトの利用が前提の作り


 せっかくの D&D機能だが,残念ながらこれはオマケ機能的な存在であり,
x-アプリ」という専用ソフトを使わないとできない事がある
それはプレイリストの利用.
x-アプリ」上で作製したプレイリストを「x-アプリ」で転送すると利用できるのだが,
自作の m3uファイルを D&Dで移しただけでは認識されないのだ.
これは後述の曲検索の使いにくさと相まって,ボディーブローのように効いてくる.


 もう一つ,ジャケット画像の利用も「x-アプリ」前提となっている.
x-アプリ」上でジャケット画像を指定してやれば,自動的にリサイズして専用フォルダに転送され
曲の再生時や検索画面で表示されるようになるのだが,
D&Dで利用している場合には当然ながら表示されない.
たとえ foobar2000Winampのように同一ディレクトリに画像ファイルを置いたとしても
認識して貰えないという前時代的仕様.なんて中途半端.
画像が表示できないくらい大した事はない,と思うヒトもいるだろうが,
本機のインターフェイスが“ジャケット画像前提”であること自体が結構ムカツクし,
(「ジャケット画像の表示を OFFにする」という設定が*無い*事からもそれが伺える)
これによってひとつの機能が壊滅的に使えないものとなってしまうのだ(それについても後述).


ただしこれには,MP3ファイル自体に画像を埋め込むという技を使う事で,
D&Dの場合でもジャケット画像を表示させる事は可能となる.
…導入している1000近いファイル全てにそれをやる気にはなれないが.




■条件付きの快適さ


 Trancendでもっとも不満だったのが,起動して再生するまでに時間と手間がかかる事だった.
それに比べるとウォークマンはすごい.一秒そこそこで起動してすぐに再生画面を表示する.
もちろんレジューム機能によって,前回再生していた曲の途中から再生が始まる.


これらの快適さは,本機のスリープ機能に由来する.
最近の DAPは電源ボタンを押しても完全に OFFにはならず,スリープに移行しているらしい.
この方が起動時に消費する電力を抑えられ,総合的にバッテリの保ちが良くなるのだそうだ.
ウォークマンの場合は,スリープ後24時間操作が無い場合に完全 OFFとなる仕様である.


では完全電源 OFF状態からだとどういった動作をするのだろうか?
答え,
起動に15秒かかり,レジュームは効かず,メインメニューに戻ってしまう.
起動時間はともかく,こんなのレジューム機能有りとは言えねーよ!!




■便利そうに見えて練られているとは言えない操作性


 ボタン配置が微妙.
決定ボタンが大きすぎ,かつ全体的に平面で他のボタンと区別しにくいため,誤動作させやすい.
特に下ボタンは本体の最下部に位置しており,これが思っている以上に押しにくかったりする.



 NW-S644には豊富な分類検索機能がある.
入っている全ての曲を五十音順で一覧表示する事も出来るし,アルバムごと,アーティストごとに並べてたり
ジャンルやリリース年で並べて表示させる事も可能だ.
が,そんなにたくさん必要か? 発売年で並び替えて面白いのか??


しかもこの検索を利用して再生した場合,その画面での表示順がそのまま楽曲の再生順序になる
全曲検索で目的の曲を探し出して再生したとすると,その次に再生されるのは“全曲リストでの次の曲”.
例えば,MOSAIC.WAVの「AKIBAの"A"からはじめよう」の次に流れるのは,Cool&Createの「ALL-A」.
MOSAIC.WAVの次の曲に進むわけではない.


アルバム検索でも同様だ.
YMCKのアルバム「FAMILY RACING」から選んだ場合,一旦はアルバム曲順に再生は進む.
しかしアルバムの最後の曲が終わって次に来るのはCis-Tranceのアルバム「FANATIC HARDCORE BLACK LABEL」.
つまり収録されているもの全てを一様にソートして再生してゆくのだ.
「FAMILY RACING」の次は「FAMILY GENESIS」に決まってんだろバカが!!


 速鳥は,“あるアーティストのアルバムを発売順に聴く”のがルールになっているので
こんな節奏のない聴き方には耐えられない.
その為のプレイリスト機能なのだが,前述の通り「x-アプリ」を使わなければ機能しない.
幸運な事にこの検索用分類には「フォルダ」と言う項目が存在し
ここからディレクトリを辿って曲選択をしてゆけば D&Dで利用していても問題なく使う事が出来る.
ファイルとフォルダにナンバリングすれば,自分の好きな順序で再生できるわけだ.


 そんな中でももっとも許せない機能がある.
再生中に上下ボタンを押すと,強制的にアルバム検索画面になってしまうのだ.
しかも酷い事にこの画面は特別で,アルバムジャケット画像_しか_表示しない.
アルバムタイトルは出ないのだ.
だからジャケット画像を設定していないと,黒いアイコンがひたすら並んでいるだけとなり
まったく意味をなさない選択画面となる.なんなんだこの馬鹿仕様は.


もしそこでジャケット写真を設定してあって無事にアルバムを選べたとしても
前述のように,曲順がアルバムでソートされた状態に勝手に変わってしまう.
アクセシビリティの高い上下ボタンに,こんな機能を付けるなんて何だと言うんだ.
最近の DAP利用者は,こんな細切れな聴き方をする機能を欲しているのか??





■連続再生42時間


 実際に計測したわけではないが,このカタログ値はすごい.
ただしバッテリの残量と表示される電池マークが比例していないようで,
目盛りはすぐに減るが,最後の一目盛りからが驚異の保ちを見せる.




■その他諸々

  • 先代にはあったブックマークやお任せチャンネル,本体のみでの曲の削除といった機能はあらかた削られている.
  • ソニーだけあって,音質は Trancend MP840より良い気はする.イヤホンのせいかプラセボ効果か?
  • 8GB容量を謳うが,例によって実際に使える容量は7.2GB程度.もはや詐欺.Trancendのはきっちり8GB使えたのに.
  • 最近ハヤリの画像や動画再生機能アリ.個人的にはまったく必要のない機能だ
  • 別売りの専用ケーブルを使えばTV出力する事も可能.歌詞表示機能を併せれば,これだけで持ち込みカラオケが可能に!?
  • Trancendに比べると曲と曲の間の空白部分が少なくノンストップアルバムも可聴範囲.


■まとめ


 正直,わざわざ買うほどのものではなかった.
プレイリストの使える MP850/860のほうがまだ良かった.安いし.
勿体ないから使うけど.


この製品は iPodの影に怯えながらもソニーの傲慢さを発揮して作り上げたもののような気がしてならない.
特に「x-アプリ」は有償版のくせに広告を表示させるという仕様も相まって
ユーザから糞認定されているのだが,「週刊アスキー」ではこのソフトが絶賛されているのだからお笑い草である.
これがコマーシャリズム


でも DAP素人にはまったく問題のない製品だろう.押しつけがましい親切さとも言えるものだ.
素人はそれよりも iPodApple)ブランドの方を重要視するかもしれないが.